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『海よりもまだ深く』は
2016年に公開された、日本映画です。
【原案・監督・脚本】是枝裕和。
【出演】阿部寛、真木よう子、小林聡美、リリー・フランキー、池松壮亮、中村ゆり、小澤征悦、吉澤太陽、峯村リエ、古舘寛治、葉山奨之、橋爪功、樹木希林ほか。
【衣装】黒澤和子。
【フードスタイリスト】飯島奈美。
【音楽】ハナレグミ。
【主題歌】ハナレグミの『深呼吸』。
是枝裕和監督の、特別な思いが込められた映画『海よりもまだ深く』。
じーんと来る名セリフや名場面も、たくさんありますね。
私が初めて聞いたことわざもありまして。
気になったので、観終わったあと調べてみたら、より一層、心ひかれてしまいました。
「栴檀は双葉より芳し」って、どんな意味?
「せんだん は ふたば より かんば し」。
人並みはずれた才能を持つ人は、幼い頃から優れていることのたとえ。
栴檀とは、白檀のこと。
双葉とは、植物が芽を出した時にみられる二枚の葉のこと。
白檀は、サンダルウッドとも呼ばれてますね。古くから、貴重な香りとして大切に扱われてきた香木のひとつ。
お線香やアロマテラピーなど、この香りが使われているものを見掛けること、ありませんか?
白檀は発芽の頃から大変よい芳香を放つことから、大成する人物は子供のときから秀逸であるというたとえなのだそう。
「栴檀は双葉より芳し」の反対の意味の言葉には「大器晩成」がありますね。
ことわざは、映画の序盤で引用されました。
ずっと嬉しそうにしてた淑子さんが言うんです。
「もう~、昔から、この子。国語の成績が良くて。ねぇ」
それを聞いた仁井田先生のセリフが、こちら。
「栴檀は双葉より芳しと言いますが、文才あったんだねえ、小さいときから。」
その間、良多は何とも言えない表情してました。
淑子さん。
樹木希林さんが演じた淑子さんは、良多のお母さんです。
半年前に夫を亡くして、今は長年住み続けている団地で独り暮らしています。
淑子さんも、なりたいものになれなかった大人のひとり。
そして、こうなってほしいという願いをいくつも抱えているんです。
このセリフの場面だけ切り取ると、息子を溺愛してる母親に見えるかもしれません。
そう思ってしまうくらい、このときの淑子さんはほんとうに嬉しそうで花のように愛らしいおばあちゃんなんです。
きっと自慢の息子なんだね。
好きな人に、好きな人を紹介したかったんだね。
早とちりした私は、単純に考えたんですが。
映画の終盤、彼女が愛情や文才について語るシーンもありまして。
この映画を観終わったとき、泣きたくなるほど優しい気持ちになれたんですが。
その理由のひとつは、淑子さん。
彼女の、良多をはじめ大切に思ってる人々の人生を穏やかな眼差しで見守る姿に、心を打たれてしまうのです。
仁井田先生。
映画の序盤から登場する、仁井田先生。
橋爪功さんが演じてます。
彼が出てくる場面は多くないので、どんな人物なのか謎めいていて、よく分かりません。
淑子さんは先生と呼んでましたが、学校の先生ではなさそうです。
お医者さんでもないみたいだし、弁護士でも政治家でもなさそうです。
私から見た仁井田先生は、団地に住む奥様方のアイドル的存在の御方。
映画の中盤。
とある水曜日、自宅でクラシック音楽の鑑賞会をしてました。
淑子さんを含む数人の奥様方と、クラシックのレコードを聴くんです。
この日は、ベートーヴェンの「弦楽四重奏曲第14番嬰ハ単調作品131」。
テレビのクラシック音楽番組みたいに解説してて、みなさんホントに楽しそう。
なのに時折、浮かない表情の仁井田先生。
おそらく彼も、なりたい自分になれなかったんだと思います。
やむにやまれぬ事情があったのかもしれませんね。
「栴檀は双葉より芳し」と言ったとき、仁井田先生は誰のことを思い浮かべていたのでしょう。
良多のことだけじゃないような気がします。
良多。
ほんとにダメダメなんです。
私は、かなりニガテなタイプ・・・。
良多を演じたのは阿部寛さんなんですが、うっかり阿部さんまでキライになりそうでした。
熱演です。役に成り切ってらっしゃる。
どうして私は、彼に過剰反応してしまうのか考えてみたんですが。
言い訳ばっかり、人のせいにしてばかりの良多は、まるで自分を見てるようでツラいんだ、って気づいて。かなりへこみました。
私も、心を入れ替えなくちゃダメですね。
このことわざ。どうして引用されたのかな?
そう言えば。
映画の冒頭から大器晩成や良多のミカンの木について、いろんなエピソードを交えながら、物語は展開していくんです。
未来はどうなるのかな?
こうだったらいいな。
どんな人でも一度くらいは、自分の未来を夢見たこと、あるんじゃないでしょうか?
夢を持てなくなった人。
夢が叶ってしまって、次の夢を模索してる人。
そして。
(私のことなんですが)うまくいかないことだらけ、かといって夢を諦めることもできなくて、八方塞がりの状態だから、自分から幸せを遠ざけてしまっている人。
(うっ。痛い。)
いろんなことで迷ったり悩んだりしてしまいますが、いつからでもどこからだってリスタートできるんだよっていう、応援歌のような映画なんだと思いました。
「栴檀は双葉より芳し」の意味が判明したとき、ちょっとビックリしたんです。
今の良多とは、あまりにも掛け離れてると思ったから。
だけど。彼のセリフの数々が、頭から離れません。
ある高校生に向けた言葉も、心に残るんですが。
クライマックスの、滑り台の場面は、秀逸でした。
この映画は、なりたかった大人になれなかった大人たちの物語だと、私は思います。