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歴史に名を残した偉い人であれば、現存する資料も豊富ですし、言い伝えなども多いと思います。
どんな人で、どう生きたのか、後世まで残ります。
では、普通の人々は・・・?
つつしみの掟により封印された偉業に挑んだ人々が、生き生きと魅力たっぷりに描かれておりました。
『殿、利息でござる!』は
2016年に公開された、日本映画です。
『國恩記(こくおんき)』という古文書に残されたお話を基にして書かれた評伝、
『穀田屋十三郎』(磯田道史著『無私の日本人』に収められた一編)が、原作です。
脚本は、監督の中村義洋と鈴木謙一が、共同執筆しました。
江戸中期の仙台藩を舞台に、小さな宿場町で暮らす人々を中心として描かれた、笑って泣ける情味豊かな物語です。
造り酒屋の穀田屋さん(阿部サダヲ)
穀田屋十三郎(こくだや じゅうざぶろう)さん。
映画の序盤、藩のお代官に訴状を突き付けようとしました。
居合わせた菅原屋さんの機転で、なんとかその場は収まります。が、お代官や肝煎の剣幕から察するに、事態は相当ヒリヒリしておりましたね。
菅原屋さんから「死ぬつもりですか?」と問われるのですが・・・。
穀田屋さんを見ていると、目は口ほどに物を言うという成句を思い浮かべてしまいます。
「伝馬」をなんとか出来ないか。
菅原屋さんの知恵を借りようとする時の、十三郎さんの目の輝きと言ったら・・・!
まるで、小さな子供が目をキラキラさせているかのようなのです。
その後、その目は何度も輝きを失い、そしてまた、何度でもキラキラと輝きます。
十三郎さんには、事情がありました。
葛藤や誤解のおおもとでもあった冥加訓。
『殿、利息でござる!』の、重要なキーワードのひとつだと思います。
宿場のためになることを誠心誠意話せば、きっと分かっていただけるはずと、心を尽くす十三郎さん。
阿部サダヲさんの、抑えた演技が絶妙でした。
茶師の菅原屋さん(瑛太)
菅原屋篤平治(すがわらや とくへいじ)さん。
「町一番の知恵者、切れ者、ご意見番、などと言われております」と、京から迎えたばかりのお嫁さんに自称します。
うぬぼれ屋さんなのかと思いきや・・・。
風のように自由な気性の、頭脳派。
私は、老若男女このタイプにめっぽう弱いので・・・。
菅原屋さんには、ついつい注目してしまいました。
あの手この手で策を練りますが、意外にも意に沿わない状況にハマったりもするのです。
(お嫁さんの)なつさんとのコミュニケーションも、実に微笑ましくて。好きだなあ。
頭脳派ですが熱血漢でもある、菅原屋さん。
瑛太さんの持ち味も光る、熱演でした。
造り酒屋でもあり質屋でもある、浅野屋さん(妻夫木聡)
浅野屋甚内(あさのや じんない)さん。
穏やかな口調で、貸した金を利息共々むしり取る、守銭奴と陰口されている人です。
浅野屋さんは、吉岡宿の人たちから「ケチ、しみったれ、守銭奴」と呼ばれていることを知っていました。
親子二代の金貸しで、お父さんの言葉をしっかりと受け継いでいる、二代目の甚内さん。
浅野屋さんのことを思うと泣けてきます。妻夫木聡さんが、巧妙すぎる演技で魅せてくれました。
肝煎(寺脇康文)
遠藤幾右衛門(えんどう いくえもん)さん。
肝煎(きもいり)とは、いわゆる庄屋さん。
村民を代表する村役人のことですが、お上からのお触れを民に徹底させたり、伝馬役や年貢の取り立てなど、お上の業務の下請けも担っていました。
十三郎さんも「あの男こそ、お上の手先」と敬遠していたのですが・・・。
肝煎の奥様も素敵な人でした。
ユーモラスであったかい肝煎を、寺脇康文さんが好演しました。
大肝煎(千葉雄大)
千坂仲内(ちさか ちゅうない)さん。
村を代表するのが肝煎ならば、その上の、約40ほどの村々を束ねるのが、大肝煎(おお きもいり)と呼ばれる村役人です。
お百姓さんの中で、最もお上に近い存在でした。
肝煎は「お上にご注進でもされたら、首が飛ばされるぞ」と、ひとまず思い止まるよう提案します。
「ならば、なんとしてでも説き伏せねば」
覚悟を決めた十三郎さん。
肝煎も大肝煎も、今でいう中間管理職だと思うのです。もしかしたら、もっとキビシイ立場かも知れません。
大肝煎にも、名場面がたくさんありました。
菅原屋さんからある言葉を突き付けられる場面や、嘆願にまつわるあの場面この場面。
千葉雄大さん。とても素晴らしい演技でした。
相役のお代官、橋本さま(堀部圭亮)
橋本権右衛門(はしもと ごんえもん)さま。
相役(あいやく)とは、一人でできる役職を二人以上が担当すること。つまりこの時代、武士が余っていたのでした。
意を決した大肝煎は、みんなで相談した上でまとめ上げた嘆願書をたずさえて、代官所へ出かけます。
序盤で、十三郎さんが直訴しようとした、あのお代官。
嘆願書に目を通し、真剣な面持ちの大肝煎を見て、「相役の橋本どのに相談せい」と、まさかの丸投げです。
お代官とはいえ、言葉を選ばすぶっちゃけるなら、藩の中では、しょせん下っ端。
板挟みの苦しい立場なのは、わからないでもありません。が。
うーん。やりきれない。
相役の橋本さまがいる代官所は、とても遠かった。
嘆願書に目を通し、大肝煎に「面を上げられよ」と、声を掛ける橋本さま。
「さてさて。これは古今、聞いたことがない願いじゃ。
だが、私が必ず、上へ取り計らおう」
と、請け合ってくれるのですが・・・。
世の中は、トントン拍子には行きません。
二転三転、紆余曲折。
いろんな事が起こります。
橋本さまの数ある名台詞を、ひとつ。
「なんということか。これは放ってはおけぬ。
よし、嘆願を書き直そう」
そして、萱場さまに直談判するのです。
なんと気持ちのいい人でしょう。
藩の行く末、民の行く末を案じるお代官、堀部圭亮さんの力演が光ります。
出入司の萱場さま(松田龍平)
出入司(しゅつにゅう つかさ)とは、藩の財政を司る役職ですが、時には奉行衆以上の権限を与えられており、その権力は絶大でありました。
萱場杢(かやば もく)。
切れ者なのですが、血も涙もないイヤな人です。
心持ちの悪~い、イヤ~なキャラクターを、感じ悪く演じるのって、実に難しい事だと思うんです。
これでもか、と無理難題を押し付ける、悔しくて腹立たしい萱場杢を演じきった、松田龍平さん。最高でした。
お殿様(羽生結弦)
仙台藩七代藩主、伊達陸奥守重村(だて むつのかみ しげむら)さま。
言うまでもなく、藩内で一番偉いお方です。
夢物語をした翌年、同志が集まりはじめた明和四年(1767年)。
その年、お殿様は25才。「従四位上・左近衛権中将という官位が、どうしても欲しかった」と劇中ナレーションがありました。
行政のトップである奉行衆たちが、頭を悩ませているシーンが続きます。
他藩への対抗意識から生ずる、江戸の老中への付け届け。ご機嫌取りのお手伝い。
仙台藩の財政は、火の車だったようです。
吉岡宿の人たちを苦しめている伝馬役。
悪いのは仙台藩にも見えますが、仙台藩だけが悪い訳ではありません。
世の中の仕組みが悪いのです。
江戸幕府が悪いようにも感じますが、幕藩体制が崩壊した現代でも、よく分からない仕組みは存在しています。
室町時代のあと、戦乱の世を経て、戦のない泰平の世でもあった江戸時代。
その辺りの矛盾が、なんだか悔しくもあり、やりきれない気持ちが悩ましい、この作品。
若くして藩主になった、伊達のお殿様も、もしかしたら葛藤を・・・、なんて深読みしてしまいます。
そんなお殿様を、見事に演じた羽生選手は、やっぱりすごい。
先代の浅野屋さん(山崎努)
これから『殿、利息でござる!』をご覧になるなら、浅野屋さんの事は秘密にしますね。
さすが、山崎努さん。
迫真の名演技でした。
浅野屋きよさんを演じた、草笛光子さんも、とても素晴らしかったです。
仙台藩でのお話ですが、きっと他にもあるのでは!?
あったらいいな、と心から思いました。