朋江は、主人公の幼なじみです。
宮沢りえが演じる朋江の、たおやかで凛とした、ありあまる魅力に私は、すっかり惹きつけられてしまいました。
『たそがれ清兵衛』とは?
幕末の、東北は庄内地方の、小さな藩が舞台です。
海坂藩で暮らす不遇な人々が、懸命に生きる姿を描いています。
主人公は井口清兵衛(真田広之)。
彼の、年の離れた幼なじみが、朋江です。
彼女が5つの時、清兵衛は12か3だったと思うというセリフがありましたね。
ちなみに。
朋江の兄飯沼倫之丞(吹越満)は、清兵衛の親しい友人。
彼らもまた、幼なじみなのでしょうね。
朋江のスゴいところ、その1。
どんな状況だろうと、相手が誰だろうと、言うべきことはハッキリ言う。筋を通すとこはキッチリ通す人なんです。
酒乱の甲田豊太郎。
めっちゃコワいし、かなり横暴ですね。
1200石の物頭(ものがしら)甲田家の跡取り息子であり・・・。
上背もあって、腕も立つ、朋江の別れた夫です。
倫之丞いわく、大変な酒乱で、酒癖の悪い人。
酔っては朋江を、殴る。蹴る。
彼女は何度も、兄の家に逃げ帰るありさまで・・・。
このままでは命に関わると、倫之丞が手を尽くして離縁させました。
ところが、甲田豊太郎。
夜更けに酔っ払って、飯沼家にやって来て、大暴れするんです。
何かが割れる音と悲鳴。そして大きな怒鳴り声。
こんな感じで初登場する彼を、好ましく思えるはずがありません。
朋江にとっては「思い出すのも、嫌でがんす」なことなのですが・・・。
「あんた、やめて下さい!」
別れた夫が、兄や兄嫁に危害を加えようとしたとき、朋江は毅然と割って入ります。
そして、彼女のプライバシーに土足で踏み込む相手に対して、こう一喝するのです。
「どこさ行こうと私の勝手でござります。
それから、ついでに申し上げますが。
私はもう、あんたの妻ではありましね。
呼び捨ては、やめて下さい!」
心の中では、本当に恐ろしくて、逃げ出したいくらいだったに違いない、と思うんです。
朋江は、このセリフを言ったあと。
別れた夫に頬をひっぱたかれ、倒れ込んでしまいます。
もしかしたら、それをも覚悟した上での言葉だったんじゃないかと、私には思えてなりません。
朋江のスゴいところ、その2。
朋江がいるだけで、うちの中がぱあっと明るくなったように感じるところです。
清兵衛の娘、萱野(かやの)と以登(いと)が、塾から急いで帰ってくる姿。
井口家で、たくさん聞かれるようになった笑い声。
とても幸せそうなのです。
心が温かくなる、わらべうた。
清兵衛の家から聞こえてくるのは、笑い声だけではありませんでした。
「おらえのちょんべなはんは
涙をぽーろぽろ ぽーろぽろ。
こぼした涙を 袂(たもと)で拭きましょう 拭きましょう。
拭いた着物を 洗いましょう 洗いましょう。
洗った着物を 絞りましょう 絞りましょう。
絞った着物を 干しましょう 干しましょう」
とても可愛らしくて、耳に心に優しい歌。
私は初めて聞いたんですが、映画を何度も観るうちに、一緒に歌えるようになりました。
清兵衛と一緒にいるときの、朋江。
これはもう、ぜひ、ご覧になって頂きたい。
可愛らしいし、美しいし、機知に富んでて、テキパキ何でもこなせるんです。
そして、心情を吐露するときの、震える声。
観ている私まで、身を切られる思いでした。
『たそがれ清兵衛』は
2002年に公開された、日本映画です。
監督は、山田洋次。
出演は、真田広之、宮沢りえ、草村礼子、伊藤未希、橋口恵莉奈、神戸浩、大杉漣、吹越満、深浦加奈子、小林稔侍ほか。
原作は、藤沢周平の小説『たそがれ清兵衛』『竹光始末』『祝い人助八』。
脚本は、山田洋次、朝間義隆。
音楽は、冨田勲。
主題歌は、井上陽水の『決められたリズム』です。
朋江の別れた夫、甲田豊太郎を演じたのは、大杉漣さんでした。
のちに清兵衛が、理不尽な藩命を受けざるを得ない状況に陥る、原因にもなった彼。
難しくてリスクの高い役を、圧倒的な存在感で演じておられますね。