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ずっと観たいと思ってた『深夜食堂』劇場版の第1作。
ようやく望みがかないました。
この映画のお題は、三つのお料理。
人の心や季節の移り変わりなど、丁寧に描かれてます。
「とろろご飯」の多部未華子さんも、すごかった。
まるで手負いの獣のような、みちるちゃん。
身の上を語る彼女のこと、息を凝らして見守ってしまいます。
『映画「深夜食堂」』の、あらすじを簡単にご紹介。
お客さんの食べたいもんを言ってもらって、できるもんなら何でも作る。
余計なお節介しないマスターが、ひとりで切り盛りする「めしや」。
夜12時から朝7時頃まで営業してる、深夜食堂が物語の舞台です。
この映画でお題になったのは、ナポリタン・とろろご飯・カレーライスの三品。
どれも主食なのは、偶然でしょうか。
前置きが長くなりました。
それでは、多部未華子さんがゲスト出演した「とろろご飯」冒頭のあらすじをどうぞ。
「とろろご飯」
洗濯物が、よく乾く季節になりました。
半袖の開襟シャツを着たマスターは、自転車で八百屋さんに向かいます。
店先で大根を手にしたとき、右手に違和感を覚えたマスター。
春先に誰かが置き忘れていった骨壺を、いったん警察に預けてたんだけど、ふと思い立って、引き取ることにしました。
一方、その頃。
漫画喫茶のドリンクバーで、切羽詰まったように、ジュースを飲む女性。
通りすがりのカップルも思わず足を止めるほど、ワケありげな感じです。
ここで寝泊まりでも、してるのでしょうか。
ある夜のこと。
めしやに、常連客のかすみさんと小道くんが来てるとき、一見さんが入ってきました。
ワケありげな彼女に、マスターは手っ取り早く提供できる料理をすすめます。
右手が思うように動かせなくて、難儀するマスター。
彼女は、ちらちらと目を向けて、気にしてるような素振りを見せるのですが……。
今回クローズアップした登場人物は?常連さんについても、サラッと。
一見さんも常連さんも、ひとクセありそうな人ばかり。
どんな人柄で、何を注文するのか、とっても気になります。
かすみさん(谷村美月)は、割に何でもぽんぽん言うんですね。
竹を割ったような、という表現がぴったり。
大阪弁でわーっと話すところもチャーミングです。
彼女の好物は、大阪のソウルフードとも言われる紅天こと、紅しょうがの天ぷら。
小道くん(宇野祥平)は、気遣い屋さん。
みちるちゃんに対しても、最初から友好的でした。
小道くんの職業は、カメラマンかな。
彼は毎回、いろんなお料理、食べてるような気がします。
いちばん謎めいてるのはマスターかも。
小林薫さんが演じる、めしやのマスター。
顔に傷がありますが、誰も何にも触れようとしない。
この映画には、マスターの古~い知り合い、千恵子さん(余貴美子)が登場します。
彼女も、余計なことは言わないんですよね。
マスターは、進んでペラペラおしゃべりしないし、適度にほっといてくれる人。
必要なときには厳しい表情になるんだけど。
不思議と何でも話したくなる、器の大きさを感じさせる人でもあります。
人間の良い面も悪い面も見尽くしたかのような、みちるちゃん。
みちるちゃんの年の頃を、常連さんから尋ねられた小道くん。
20代半ばって答えてました。
彼女を演じた多部未華子さんは、1989年の早生まれ。
みちるちゃんとは同年代ですね。
だけど、そこにいるのは栗山みちる。
心に傷を負った、ひとりの女の子でした。
初っぱなの彼女は、いかにも怪我した野性動物のよう。
警戒心をあらわにしてましたね。
訳あって、マスターのもとで働くようになってから。
みちるちゃんの表情が、どんどん豊かになるんです。
彼女が、おばあちゃんとのツーショット画像を、ひとりで眺めてる場面がありまして。
物思いに沈んでぼんやり見てる面持ちも。
幸せそうに写ってる、二人の面差しも。
誰にも見せてなかったみちるちゃんの素顔だと思うんです。
みんなの前でも本来の姿を見せてくれるようになって、私は勝手に安心してたんですけども……。
みちるちゃんの半生が壮絶すぎる。
私が初めて観た『深夜食堂』シリーズは、『続・深夜食堂』でした。
ドラマ版も観てなかったのに、どうして劇場版の第2作を観たのか……。
ちょっと思い出せないけど、暴挙ですよね。
とても面白かったんです。
たとえマスターや常連さんの、それまでの出来事が分からなくても。
人情味あふれる感じ。
めしやの風情。
それに何より、食欲をそそられるお料理の数々。
だけど。
ひとつ分からなかったのは、みちるちゃんの心遣い。
どうして見ず知らずの人に、あんなにも親切なんだろう。
その答えは『映画「深夜食堂」』にある。
そんな気がして、ず~っと観たいと思ってました。
信じた人に裏切られる。
みちるちゃんは、新潟県の上越出身です。
かつて、地元の居酒屋でバイトしてた頃。
彼女の料理を認めてくれた人がいて。
東京でお店を出そう、と故郷を後にしたんです。
ところが、この長谷川なる人物。
最低最悪の人でして。
みちるちゃんの貯金を預かったまま、行方をくらましちゃったんです。
彼女の貯金を使い込んだだけでなく、借金まであるらしい。
しかも早くも、お金に困ってるんでしょう。
「ずいぶん捜した」だの「ばあちゃんにも会いに行った」だの。
みちるちゃんを置き去りにしておいて、なんたる言い草。
全くもって、腹立たしい。
どちらが悲しいのか、分からない。
みちるちゃんは、物心ついた頃からご両親がいないそうです。
「ずっと、おばあちゃんに育てられた」って言ってましたね。
つらくてたまらないことです。
それなのに、秀子ちゃんと自分と、どちらが悲しいのか分からないって言うんです。
どちらも、身を切られるような思いのはず。
自分のことより、秀子ちゃんの気持ちを考えてるみたいで……。
みちるちゃんの心遣いに、胸がギュッとなりました。
秀子ちゃんは、彼女の幼なじみ。
みちるちゃんが作った卵焼きをほめてくれた人なんです。
彼女たちが中学2年生のとき、秀子ちゃんのお母さんは亡くなりました。
みちるちゃんは、彼女はひとりぼっちになってしまったのに、自分にはおばあちゃんがいる。
そのことが申し訳ないような。
でも正直な気持ちとしては、幸福なことでもあり。
中学2年生の女の子が、どちらが悲しいのか分からないって考える。
このこと自体、とてもかなしくてやりきれない気持ちでいっぱいになりました。
故郷に帰れないのかも。
ひとりぼっちで東京に取り残された、みちるちゃん。
マスターに会った頃には、食べることにも、眠る場所にも、困ってましたよね。
長谷川さんの言うことが本当なら、みちるちゃんは故郷に帰る選択もできたはず。
彼女には、故郷に帰れない理由があるのかもしれませんね。
『続・深夜食堂』で夕起子さんに、あれほどまでに親切だったみちるちゃん。
彼女は、おばあちゃんのことが大好きで、とても大切に思ってるんだな。
みちるちゃんの物語を、もっと観たくなりました。
『映画「深夜食堂」』の、スタッフ・キャスト・製作年など。
【出演】小林薫、高岡早紀、柄本時生、多部未華子、余貴美子、渋川清彦、谷村美月、森下能幸、筒井道隆、菊池亜希子、向井理、不破万作、綾田俊樹、松重豊、光石研、安藤玉恵、須藤理彩、平田薫、山中崇、宇野祥平、中山祐一朗、野嵜好美、高橋周平、中沢青六、田中裕子、オダギリジョーほか。
【監督】松岡錠司
【脚本】真辺克彦、小嶋健作、松岡錠司。
【美術】原田満生
【装飾】栗山愛
【衣装】宮本まさ江
【フードスタイリスト】飯島奈美
【音楽】鈴木常吉、福原希己江、日南京佐、スーマー。
【主題歌】「思ひで」鈴木常吉
【原作】「深夜食堂」安倍夜郎
【製作年・国】2015年、日本。
この映画は、何かに「すがる」こともテーマのひとつかな、って思っています。
みちるちゃんは「すがる」ものを失って、もしくは「すがる」ことをやめた後で「とろろご飯」を食べたんじゃないのかな。
とろろをお箸でプツッと切った場面を観て、そんなふうに考えてました。