クライマックスの、裁判所の休憩室にて。
被害者の娘・山中咲江と被告の弁護人・重盛朋章が、向き合うシーン。
「ここでは誰も本当のことを話さない」
広瀬すずさんと福山雅治さんが会話してる場面も、何か言外の意味を含んでるような気がしませんか?
セリフとしては表現されない、秘められた気持ちみたいなもの。
映画のクライマックスも、そう。
ふたりきりで話してるシーンは特に、核心に触れてるような気がして、頭から離れません。
『三度目の殺人』の、あらすじを簡単にご紹介。
ある秋のこと。
小さな食品加工工場の、社長が殺害されました。
ほどなく逮捕される、三隅高司。
早々に、自ら罪を認めます。
事件を起こす前に工場を解雇されてた彼には、殺人の前科がありました。
最も重い刑罰は、避けられそうにありません。
摂津・重盛・川島の三人は、弁護人として事件を担当することになりました。
重盛は、勝ち負けを重視するタイプの弁護士です。
なんとか無期懲役にできないかと、調査を始めます。
あっさり自白した三隅でしたが、その後の供述は二転三転。
重盛たちは、彼の言葉に振り回され。
本当のことに対する持論が揺らぎ始めます。
前後して、三隅の独占告白が掲載された、週刊誌が発売されました。
被害者の妻から共犯の疑いがある妻になった、山中美津江。
TVのワイドショーも大々的に報じ、彼女は追い詰められていきます。
美津江には、誰にも言えないことがありました。
今回クローズアップした登場人物。「是枝組」初参加のキャストについても、サラッと。
三隅高司を演じた、役所広司さん。
ほんとに不気味でしたね。
何を考え、どうしたいのか。
分かったと思った瞬間、分からなくなる。
すごいな。すべてが圧巻でした。
役所広司さんは意外にも、「是枝組」初参加だったんですね。ほかにも……。
吉田鋼太郎さん(摂津弁護士)、満島真之介さん(川島弁護士)、市川実日子さん(篠原検察官)、斉藤由貴さん(山中美津江)などなど。
数多くの方々が、是枝監督作品に初参加されてます。
今回クローズアップしたのは、このお二人。
被害者の娘・咲江を演じた、広瀬すず。
広瀬さんの目力、すごかったですね。
あるときは、とても強い。
咲江の意思だったり、行動だったり、守りたいものだったり。
誰にも止められないし、邪魔できない。
彼女の固い決意が、はっきりと感じられました。
そうかと思えば、弱かったり、今にも消え入りそうだったり。
あきらめだとか、絶望だとか。
咲江の言葉にできない思いがあふれてるようで、じっくり考えてしまいます。
山中咲江は、高校生。
二年生かな、受験生かな。
彼女が図書館で勉強してるシーン。
机の上に、北海道大学の過去問題集(理系・前期日程)、ありましたね。
母と会話してる場面でも、美津江が言ってました。
「咲ちゃんが北海道の大学行っちゃったら……」
重盛が三隅の弁護を引き受けたのは、12月に入ってからでした。
受験生にとって、この状況で勉強に集中するのは並大抵のことじゃないですよね。
そういえば、三隅の一度目の事件のとき、重盛は高校二年生。
これも何か、意味があるんでしょうか。
重盛弁護士に扮したのは、福山雅治。
福山さんが演じる重盛朋章は、やり手のエリート弁護士そのものに見えますね。
物語が進んでいくと、意外な面もありますし、完璧じゃない、揺らぎのある人だと分かります。
娘の結花ともギクシャクしてました。
そんな重盛が、咲江と一緒にいる場面。
父親っぽく見えるのは……、なんてバカげたことを考えてしまうシーンもありました。
「ここ」って、ドコだろう?
法廷
ストレートに考えると、法廷でしょうか。
咲江がつらい証言をしようと思ったのは、母が本当のことを話さなかったから。
三隅は法廷で犯行を否認しました。
咲江は、その言葉が本当じゃないと思ってます。
弁護人の重盛ですら、三隅のその言葉を信じていませんでしたよね。
少なくとも、その時点では。
咲江は、見て見ぬフリをしない機会を失い、亡くなった父親に感謝の言葉を述べました。
つらい証言が本当のことなら、謝意を示すのは不本意です。
法廷の別室でしたが、篠原検察官もそうですね。
三隅が犯行を否認したことで、公判を最初からやり直すしかないと言ってたんですが。
ベテラン検察官に説得されて、彼女は主張を曲げました。
そっち
三隅が感情的に吐き捨てた言葉が、頭にこびりついています。
「いろんなこと見て見ぬフリしないと、生きていけませんからね!そっちじゃあ!」
言われたのは重盛たち、
弁護人は、そっちなんでしょうか。
三隅は、こっち?
裁かれる側、ということかな。
でも、そうなると。
そっち=塀の外?
見て見ぬフリをしてるのは、みんな?
う~ん。難しいなぁ。
「誰も」に含まれる人は、誰?
とても混乱してしまったので、シンプルに。
咲江が言った、本当のことを話さない人のことを考えてみますね。
咲江は、つらい証言しませんでしたし、父親に感謝していると言いました。
美津江は、工場のことは夫が取り仕切っていたからと、知らないフリをし続けました。
咲江の視点で考えると。
重盛は、咲江に本当のことを話させませんでした。
重盛に向かって言った、彼女の言葉は、あのひとの言ったとおり。
あのひと=三隅だと思うんですが。
あのひと=本当のことを話さない人、かどうか自信が持てません。
真実は深い闇の中へ……。
『三度目の殺人』は、真相を明らかにする映画じゃないんだと思ってます。
三隅の言うことが、二転三転するたびに。
重盛たちの調査が進んで、違和感が増していくごとに。
映画を観てる私は、どれがホントで何がウソか分からなくなり、うっすら寒気さえ感じてしまう。
少しでもスッキリしたくて、試行錯誤を重ねてしまう。
そういう作品なんだと思います。
『三度目の殺人』の、スタッフや製作年など。
【出演】福山雅治、役所広司、広瀬すず、吉田鋼太郎、満島真之介、市川実日子、橋爪功、斉藤由貴、松岡依都美、蒔田彩珠、品川徹、根岸季衣、高橋努、小倉一郎、井上肇ほか。
【原案・監督・脚本・編集】是枝裕和
【音楽】ルドヴィコ・エイナウディ
【公開】2017年
【製作国】日本
是枝監督が過去に答えた、インタビュー記事を読みました。
福山雅治さんの長セリフをやむなくカットした、という内容でした。
監督いわく。とても素晴らしかったけど、ある言葉に繋がらない。
その言葉が、「ここでは誰も……」なのだそうです。
ということは、ここ=法廷、ということかな?