映画【紙屋悦子の青春】原田知世と永瀬正敏から漂う飾り気のない穏やかさに心を揺り動かされてしまいました

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この映画は、2つの時代を描いてるんだと思っています。

戦後。それもおそらく平成になって数年は経ってるのでは・・・?と、感じられる頃と。
終戦を間近に控えた昭和20年、春

二度と戦争をしてはならないというメッセージが込められた作品です。
不謹慎と思われるかもしれません。

だけど、私にとって『紙屋悦子の青春』は、
平和に感謝したくなる恋心と愛情を描いた作品でもあるのです。

『紙屋悦子の青春』とは

終戦間近の鹿児島県に暮らす人々を、主軸とした作品です。

映画の冒頭は、数十年後の主人公その大切な人との、会話劇でもありまして。
心を打つ、印象深い、この作品の大きな見所の1つだと言えるでしょう。

冒頭の、病院の屋上シーンで感極まってしまいました。

『紙屋悦子の青春』は、お年を召された方が、ふたりで会話なさってる場面から始まります。

空を飛ぶ、航空機の音が響いてますね。
風も強いようです。
ふたりがいるのは屋上で、遠くに見える山並みも絶景で。
ベンチに腰掛けて、景色をのんびり眺めたり、穏やかに会話したり・・・。

その姿を遠目に見る、そんなカメラアングルです。

寒くない?

入院してるのは、おじいさん、かな?
背筋を伸ばして座ってる姿に、ラフな服装。
そのアンバランスさから、ああ寝間着なんだろうなと察せられます。

おばあさんは、きちんとした着物姿ですが、よそゆきって感じじゃありません。
やまとなでしこという言葉を思い浮かべました。

ボクトツとした話しぶりの、おじいさん。
どちらのお国言葉なのか、最初は分かりませんでしたが、何かが気に掛かってるようですね。

おばあさんに「寒くないか」と訊ねてました。

ああ、ダメだ。
私は、込み上げてくるものをグッとこらえます。

だって、おじいさんの方こそ寒くないのか気になる服装なんです。

遠目にはよく分からないけど、多分おじいさんはパジャマでしょう。
その上に、カーキ色よりもっと濃い、焦げ茶色のカーディガンを着ています。
もしかしたら、おばあさんの手編みなのかもしれません。

おばあさんの方は、仕立てのよい着物をきちんと着こなしてますし、肩掛けも羽織ってるので・・・。
それほど寒そうではないんです。

そんなふうに私が思っていると、おばあさんがおじいさんに訊ねます。

あなたの方こそ寒くないんですか?と。

お互いに、相手のことが心配で、いたわりあってるんですよね。

もうダメだ。
私の心はギューっと締め付けられて、すでに涙腺ゆるんでます。

映画が始まって、まだ10分も経ってません。

眺めのいい屋上で、並んで座って話してる。
ふたりに、私は強烈に惹きつけられたのですが・・・。

「まだあるやろうか、桜ん木」

不意に、おじいさんが尋ねました。
急だったので、少し驚く、おばあさん。
「あっでしょう」と答えたけど、心配そう。

「どげんしたとですか」と聞き返しますが、おじいさんの口は重たくて・・・。

「思い出したと」「昔んこと」

このあとの、ふたりの会話がおいたわしくて、切なくて

昔のことだけど、「昔話」にしてはいけないのかもしれません。

おじいさんとおばあさんの会話は続きます。

「戦争は、もう嫌ですたい」
「ん。もうよか、戦争は」
「なして、戦争のあったとやろうか」
「なしてやろうか」

そのあとの、おじいさんの一言が、私の心に重く強く残ります。

「なして。おいは・・・、生きとるとやろうか」

そうして物語は始まりました。

『紙屋悦子の青春』は

2006年に公開された、日本映画です。
監督は、黒木和雄。
出演は、原田知世、永瀬正敏、松岡俊介、本上まなみ、小林薫ほか。

原作は、松田正隆の戯曲『紙屋悦子の青春』(1992年)。
脚本は、黒木和雄、山田英樹。
音楽は、松村禎三です。

黒木和雄監督の遺作となってしまいました。
私の大好きな映画のひとつです。