「チームのムードメーカーっていうか、楽しいやつ」で・・・。
28年経っても、かつての仲間からノリと呼ばれ、「ひとことで言えば、アホだったな」と評される松川典夫。
笑顔の素敵な人に、悪い人はいないんじゃないかなあ・・・。
つい、そんなことを考えてしまうような魅力あふれる人物も、登場する映画です。
『アゲイン 28年目の甲子園』とは?
ある事情により、夏の甲子園出場をかけた県大会の決勝戦を、辞退せざるを得なかった、川越学院高校野球部。
あれから28年が経ち。
不思議な巡り合わせから、マスターズ甲子園を目指すことになる、大人たちの青春を描いた作品です。
松川典夫って、何者なの?
映画の冒頭から登場する、松川典夫。
でも、それらは全て回想シーンでした。
屈託のない笑い声。
年賀状に書かれた文字(一球入魂)。
詳しい説明もないのに、なぜか忘れがたい場面なんです。
一球人魂(いっきゅう ひとだま)。
主要な登場人物のひとり戸沢美枝。
当時、小学生だった彼女は、年賀状を書いてる父の向かいで、漫画を読んでいました。
「ねえ、お父さん。一球ヒトダマって、何?」
彼女は、ホラー漫画が好きだったんです。
いつも作ったような笑顔を浮かべるだけだった父。
戸沢美枝が、父の爆笑する声を聞いた、唯一の思い出でした。
主人公、坂町晴彦とノリの関係は?
この映画の主な舞台は、2012年の関東地方。
主人公坂町晴彦の実家は、埼玉県にあるんです。
彼の母校は川越学院高校。
野球部のキャプテンを務めていました。
いわゆる強豪校の川越学院野球部は全寮制。
家庭の味が恋しくなると、実家が遠い部員は、近い部員の家に行って、一緒にゴハンを食べたりしてたそうです。
松川典夫の実家は、東北にありました。
学生時代、ノリは何度か坂町キャプテンの家を訪れていたんです。
一人だった、松川典夫。
平成24年の秋。
坂町晴彦を訪ねて来た、戸沢美枝。
少々強引にも思える彼女は、初対面にもかかわらず、身の上話を切り出しました。
「私は、松川典夫の娘なんです」
漁師だった彼は、地元の消防団員でもあり、あの日は避難誘導の車に乗っていて、津波から逃げ切れなかったのでした。
戸沢美枝って、誰なの?
彼女は、神戸大学の学生です。
マスターズ甲子園は、神戸大学の准教授が始めたことなんだそう。
美枝は、たまたまその先生のゼミを取って、去年からボランティアで手伝うようになりました。
知らなかったなあ。
マスターズ甲子園のことも、その発祥が大学だったことも・・・。
戸沢美枝の両親は、彼女が10才の時、離婚。
以来、父とは一緒に住んでいなかったと言います。
だから、父は、一人だったんですと。
何も知らなかった彼女が、マスターズ甲子園に関わることで、疎遠だった父に我知らず近づいていて・・・。
戸沢美枝も、独特の個性を持っています。
彼女のことを、私は十分理解できてるのか。
正直、自信はありませんが・・・。
説得力のある、みんなを結びつけるきっかけになる人物だということは、間違いありません。
太賀さんの表現力が、堪能できますよ!
松川典夫の人となりについて、長すぎるくらい書いてしまいましたが・・・。
彼の描写は、おおむね伝聞なんです。
ノリの登場シーンは、それほど多い訳ではありません。
実際、わずかな時間なんですが・・・。
笑って、泣いて、苦しんで、慈しむ。
人間のあらゆる感情を、全てさらけ出したような、松川典夫という人物。
彼を演じた太賀さんが、圧巻でした。
シュワッチ!
ノリはチームのムードメーカー。
愛されキャラだったんです。
シュワッチ言うときの仕草が、なんとも微笑ましい。
ノリの笑顔を見てると、ミスったって何だってオッケー、どんまいって気持ちになりました。
彼のシュワッチで、チームメイトに笑顔が戻る。
心温まる、いい場面なんです。
いつも朗らかだったノリと、笑顔を作るだけだったという松川典夫。
太賀さんの演じるノリは、高校生から(美枝が小学生だった)30代前半もしくは半ば頃までじゃないかな?と思います。
高校時代のノリは、喜怒哀楽がハッキリしてて、それでいて聡明なところもある男の子でした。
大人になった松川典夫は、どこか淋しそうで、穏やかな男性に見えました。
ホントに野球部OBが言うような、ヒドイ人だったのかなあ・・・?
野球する姿も、こなれてます。
坂町キャプテンの世代。
川越学院野球部史上、かなりの強豪だったようですね。
現在、母校でコーチをしている、後輩OBの大出くん。
熱のこもった指導には、目を見張るものがあるんですが・・・。
「僕もね。甲子園の土は踏んだ事ないですからね」と言ってますし。
坂町キャプテンやノリの同学年、エースピッチャーの高橋くん。
「あれがなかったら、俺はプロに入れたかもしれないんだよ、今の人生、変わってたかも、しれないの!」
と、今でも未練に思ってるんです。
そのくらい、実力のある強いチームだったって事なのでしょうね。
高校時代、どうやらノリはレギュラーではなかったみたい。
それでも野球してるシーンは、それはもう、堂に入ったものでした。
あのとき外野で、はにかんだように笑う彼をみた私は、鼻の奥がツンとしてしまいました。
この映画は、癒えない傷を抱えた人々を描いた、ハートウォーミングな作品でもあり。
28年前の真実をつまびらかにする、ミステリー作品でもあるんですね。
『アゲイン 28年目の甲子園』は
2015年に公開された、日本映画です。
監督・脚本は、大森寿美男。
出演は、中井貴一、波瑠、柳葉敏郎、和久井映見、村木仁、浜田学、西岡徳馬、門脇麦、太賀、堀内敬子、安田顕、工藤阿須加、高橋慶彦ほか。
原作は、重松清の小説『アゲイン』。
音楽は、梁邦彦。
主題歌は、浜田省吾の『夢の続き』です。
エンディング。
浜田省吾さんの歌は心に染みるなあ、なんて思ってたんですが・・・。
高橋慶彦さんのお名前を見つけて、慌てて巻き戻しボタンを押しました。