喪失に直面する、登場人物たち。
中森雅哉のセリフには、何度も衝撃を受けました。
手放すと決めるまで、誰にも奪わせない。
そんな思いが伝わってくる、永瀬正敏さんが演じた、中森さん。
彼の気力を振り絞るように続けた言葉は、今も心に響いています。
「動かせなくなっても……」
大切なものを持ち去られてしまう、中森さん。
わずかな情報と、おそらく記憶を総動員したんだと思います。
取り戻すために乗り込んだ先で、つかみ合いになりました。
しらばっくれる相手に、立ち向かう中森さん。
観ている私は、もう泣きそうです。
持ち去ったのは、別の人物かもしれない。
そう思った時でした。
渋々といった感じで相手が差し出したものを、いとおしそうに確認する中森さん。
これほど強い精神力を、どうしたら持ち続けられるのでしょう。
「心臓なんだよ……動かせなくなっても……俺の心臓なんだ」
中森さんの、全身全霊をこめているとしか思えないような、この言葉。
映画の中盤、60分を過ぎた頃の場面です。
何度観ても、心をえぐられるように響きます。
中森雅哉(永瀬正敏)
中森さんは、今の医学では治りようのない病気で、視力を失いつつあります。
できるだけ、陽のあたる部屋を。
そう望んで借りたアパートメントに、ひとりで暮らしています。
中森さんの目に、世界はどう見えているのか。
その境界もあいまいですが、時折、視点を共有することができるんです。
鮮明だった映像が、ぼやけたり、薄暗くなったり。
とても恐ろしく感じましたし、息が苦しくなりました。
それが、彼の世界なんですね。
『光』の、あらすじ。
中森さんは、とあるオフィスで行われた、音声ガイドのモニター検討会に参加していました。
『その砂の行方』という映画の、登場人物の動作や情景を言葉で伝える。
セリフを邪魔しないように、視覚的な情報を補うナレーションをつける。
音声ガイドを作っている尾崎美佐子は、仕事にも人生にも、行き詰まりを感じているようでした。
彼女は、中森さんと出会ったことで、少しずつ変わり始めるのですが……。
スタッフ・キャストなど。
【監督・脚本】河瀬直美
【撮影】百々新
【照明】太田康裕
【美術】塩川節子
【音楽】イブラヒム・マーロフ
【エンドタイトル】熊谷幸雄
【出演】永瀬正敏、水崎綾女、神野三鈴、小市慢太郎、樹木希林(声の出演)、早織、大塚千弘、大西信満、堀内正美、白川和子、藤竜也ほか。
【製作年・国】2017年、日本・フランス・ドイツ。
『光』も、映画音楽が素晴らしい作品ですね。
シーンにあわせるかのように効果的に音楽が流れ、何度もハッとする。
エンディングのピアノ曲も素晴らしく、余韻が消えません。