桜が美しい。
青葉が、銀杏が、月の満ち欠けが、美しい。
自然を愛でるように、ひとりひとりに、身の回りのひとつひとつに、改めて目を向けてみませんか?
私に、そう教えてくれた作品です。
『あん』は
2015年に公開された、日本とフランスとドイツの合作映画です。
監督は、河瀬直美。
出演は、樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅、市原悦子、水野美紀、太賀ほか。
原作は、ドリアン助川の小説『あん』。
脚本も、河瀬直美監督です。
千太郎さんは、どら焼き屋さんどら春の、雇われ店長さんです。
ひとりで切り盛りするのは大変ですね。
どら春は、アルバイトを募集していました。
ある日のこと。
その貼り紙を見た、ご年配の女性が、ためらいがちに言いました。
「私・・・。あのね、私、駄目かしら?」
「こういう仕事、一度してみたかったの」
徳江さんと店長さんが出逢ったのは、満開の桜の下でした・・・。
だんだん表情が柔らかくなる、店長さん。
どら春で働き始めた、徳江(とくえ)さん。
小豆あん作りの名人だったのです。
あんを美味しく炊く秘訣は、小豆の言葉に耳を澄ます事・・・。
実は甘党じゃなかった、店長さん。
「やっと自分が食べられる、どら焼きに出会ったって感じです」
徳江さんと話すとき、僕と俺が行ったり来たりして、勝手に嬉しくなる私。
季節の移り変わりとともに、どら春にも、さまざまな変化が訪れます。
木々の緑が、小豆色に染まり・・・。
徳江さんから届いた手紙の、言葉のひとつひとつが、私の頭から、心から離れません。
自然の美しさを、ふんだんに映し出す意味。
観ている間、何度も涙がこぼれました。
「私たちは、この世を見るために、聞くために生まれてきた。
だとすれば、何かになれなくても、私たちは、私たちには、生きる意味があるのよ」
この言葉は、ラストシーンにつながる、大事な大切なモノローグです。
この世は、美しくて、不条理です。
生きてる限りは、何があろうとも、季節は移り変わりますし、日は昇り、日は沈みます。
人が抱えているものも、さまざまです。
店長さんにも、どら春にいる理由がありました。
「人生いろいろね」と励ます、徳江さん。
ご自分への言葉でもあり、胸が痛みます。
これまで私は、ハンセン病について知っていると、思っていました。
でも、それは不十分で、知っている気になっていただけだと、教えてもらいました。
この映画に出逢えたことを、感謝します。
エンディングの、クレジットロールに被る声が、私の心を温めてくれました。
千太郎さんのどら焼きは、徳江さんのあんを挟んだものと、おんなじ美味しさなのでしょうね。
食べたいな。