【隠し剣 鬼の爪】図らずも、同じような人生をたどる、師と弟子。田中泯と永瀬正敏に魅了されます。


隠し剣 鬼の爪

不条理で理不尽な状況に置かれても、侍らしく生きた、片桐宗蔵。

これほど静かに、こんなに悲しく、憤るお侍さんの姿は、強く心を捉えるのでした。

『隠し剣 鬼の爪』は

2004年に公開された、日本映画です。
監督は、山田洋次。
出演は、永瀬正敏、松たか子、吉岡秀隆、小澤征悦、倍賞千恵子、田中邦衛、神戸浩、松田洋治、田中泯、小林稔侍、緒形拳ほか。

藤沢周平の小説『隠し剣鬼ノ爪』と『雪明かり』をベースに、山田洋次監督と朝間義隆が、脚本にしました。
音楽は、冨田勲。
衣装は、黒澤和子。
美術は、出川三男。
美術監修は、西岡善信です。

幕末。北の小藩海坂藩
質素倹約を旨とし、つましく暮らす片桐宗蔵は、島田左門らと共に、友の見送りに来ていました。
海坂藩随一の一刀流の使い手、狭間弥市郎が江戸詰めになったのです。

「出世して、戻ってくるんだろうのう、あの男」と呟く左門。
「それだば、いいども・・・。俺は、あいつのこれからが、何だか不安でならね」と答える宗蔵でしたが・・・。

架空の小藩、海坂藩。

原作者の藤沢周平は、山形県鶴岡市出身の小説家です。
1997年に、69才で逝去されました。

数多くの作品を残されましたが、微禄の藩士を描いた時代小説も、そのひとつ。
架空の藩・海坂藩を舞台にした作品は、明記されたものだけでも、『隠し剣』シリーズや『蝉しぐれ』など・・・。
映像化されたものも、たくさんあります。


必死剣 鳥刺し

海坂藩のモデルは、どこなのか・・・。
明らかにされていませんが、出身地である城下町鶴岡・庄内藩なのでは?とも言われています。

片桐宗蔵を演じるのは、永瀬正敏。

いつの時代でも、懸命に生きている人ほど生きづらいのは、なぜでしょう。

「その昔。片桐・狭間の二人は、戸田先生の門下で、龍虎(りゅうこ)って言われたもんだ」

共に、西洋式砲術を学んでいる、海坂藩内講武所の同僚から、良いとは言えない噂話をされるのですが・・・。
そんな時ですら、彼らは宗蔵さんの剣術に、一目置いていることが、よく分かります。

こんなシーンも、ありました。
砲術を教えている先生が、ついボヤいてしまった場面です。

「一刻も早く近代砲術を学んで、有事の際に備えたい。
という藩の要請に応じて、僕は、はるばる江戸から、こんな地の果てのような辺境に、無理してやって来たんじゃないか。
冗談じゃないよ、ホントに」

砲術の先生は、こうも話していました。
これからの戦いは、値段の高い武器を持った方が勝つ。
要するに、金です。
そういう時代が来たんです

宗蔵さんは、ある事情から、今は30石の平侍です。
宗蔵さんには、まったく落ち度はありません。
が・・・、事情が事情だけに、出世の見込みは、まずありません。

それでも、
「嫌だ事は、毎日だが・・・、耐えねばのう。侍らしく」
刀に、侍に、誇りを持っています。

そんな宗蔵さんは、甘んじて非難を浴びてきました。
母上の三回忌でも、親戚から罵倒されるのです。

「侍ともあろう者が、飛んび道具、
ありがたそうに扱いやがって!」
おんつぁまの、勘兵衛さんが言いました。

「飛び道具は、いかん!
侍の道さ、反する。とんでもねえ」
文右衛門さんが言いました。

見兼ねた左門さんが助け船を出しますが、
おんつぁま達は口々に、「ばか者!」「ほろけ!」「やっこやろ!」「もんじょろけ!」「あっちゃ行け」・・・。
方言の意味は、私には分かりませんが、ひどい言葉なのは分かります。

さらに、宗蔵さんを窮地に追い込む、大事件が起こるのですが・・・。
つらい。

戸田先生を演じたのは、田中泯。

宗蔵さんが、大目付に呼ばれたシーン。

「私と狭間は、戸田先生から剣を教わった、言わば、兄弟弟子でがんす」

「戸田?」
一瞬キョトンとした家老に、側に控える侍が、こう伝えました。

「先君(せんくん)の時代。
何を思ったか、禄(ろく)を返上して百姓になった、例の、戸田寛斎(とだ かんさい)でがんす」

それを聞いた家老は、たった一言
「ああ、あの変人か」と。

それから、いくときか経ったころ。
脅迫めいた方法で、藩命を受けた宗蔵さんは、戸田先生を訪ねました。

事情を聞いて、そこらに置かれた棒っ切れのような、を手に取る戸田先生。
そんきょのような姿勢のまま、ひゅんひゅん振り下ろすのを見ただけで、傑出した剣術の達人であることが、よくよく分かるのです。

戸田先生は、ひとめ見ただけで、宗蔵さんが何かにおびえていることを、見抜きました。
宗蔵さんに、こう話します。

「いいか。これから教える事がある。
本気で来い!」

「すでに、お前に伝えた戸田家秘伝の鬼の爪と違って、今のは戦うための剣だ。
一か八かの、危ない剣だ。
それを覚悟して、使え

戸田寛斎が、家代々の秘剣鬼の爪を、なぜ
片桐宗蔵に伝授したのか・・・。

あれこれ拝察してしまいますが、当たらずといえども遠からず、なんじゃないかなと思ったり。

ものの考え方は変わっていくものですが、大事に受け継いでいきたい想いは、あると言うことを、分かりやすく、教え諭してくれるような映画です。


はろこ

秘剣の伝授は、途絶えてしまうのでしょうか?
もしかしたら戸田先生は、あのとき鬼の爪を使ったのかも知れないなあ、なんて考えてしまいました。